①新宿西口改札

それは朝の通勤ラッシュの事だった。

ピンポーン!

何か嫌ーな感じの音がしたので下を向くと案の定、扉は閉まっていた。

『早くしろよー!』
『急いでんだよ!』

そんな声がふと後ろの方から聞こえた気がしたが、気のせいだろうか。
しかし、私の後ろにあった人の行列はそれぞれに1人ずつ右左と移動していく様子が見えた。
その瞬間に何かの焦りを感じた。

『人が怖い。』

そんな感情が一瞬、自分の頭の中をよぎった。そしてその感情は瞬く間に消えうせ、
自分も列からずれ隣の改札機へとsuicaをタッチした。

ビピッ!

ドーッというような音、それが一つに人が止まないほどに通過する情景が見え、

『またこの日常か、』

私は新宿西口の改札を通り終えたばかりだった、これから山手線階段を上ること知っていたが、
無意識にそれを恐れた。しかし、身体は嫌々ながらも登るが、なんともその腰が重たい。

急いで行かないといけない!そんな感覚はわかっている。
しかし、頭ではやりたくねーとある意味良い潔さがあった。

『これがあれば僕は何でもできるのに。』

そんな事を思いながら、同時に動いていく人混みの階段登り終えると、再び壁が立ちはだかった。
それは人波の波だった。波が波を呼び、収まると思いきや、再びすぐに波はおとずれた。

『なんだよ、これは!』
私は訳も分からず、それに混じりながらも乗車した。

男『おはようございます!』

オフィスに着き、覚えたばかりの業務を行い、私はそれを無闇に行動した。
それを恐れることを知らないかのように。

そんな日々を2週間過ごした私は無意識の自分を忘れ、ただひたすらその日常を覚えていくことを続けた。

次第に強まる焦り。何故だかは分からない。どうしてなのかも分からない。
その不安はいきさきを間違えたのか、単なる自分の勘違いか。
なんにせよ、私はその感情を見ることを塞ぎ、諦めた。

私は日常に戻った。またとない普段の日常へと。

それは、ある夏の出来事だった。

毎年欠かせないある場所へと向かっていた。

ピンポーン!

男『あっ、鳴っちゃった。』

何故だろう、今日はその音が何も気にならなかった。不思議な感覚だ。
そして私には余裕があった。また楽しみが待っていた。

ピンポーン。

男『おばあちゃーん!』

『あいよー』

そんな可愛らしい声が少し遠くの方から聞こえる。

『あら、いらっしゃい(ニコッ)』

そこに居たのは紛れもない私のたった一つの宝物だった。

『よく来たね~(笑み)、とりあえず入んな。』

私は玄関を抜け、奥まで上がりソファー前のコタツ式のテーブルに足を崩した。
そして奥の方ではシャキッ、シャキッと水々しく切った音が聞こえる。

『今日は一人なんだね~、お兄ちゃんも一緒にくればいいのにね~
とそれはゆっくり優しく呟いていた。

男『ね~、でも今日は一人で来たかったんだー(ニコッ)』

『んんそっか~、ならいいや~、あぃよ』

トン。
目の前には、大皿の上に等分に切られたスイカが並んでいた。

シャキッ、シャキッ。
それを齧ると甘い幸せな感覚が口一杯に広がった!

男『やっぱりおばあちゃんのスイカは美味しいな~』

すると、途端に目が覚める!

suica『ピンポーン!』

駅員『かけこみ、駆け込み、駆け込み乗車はおやめ下さい!』

駆け込み客『いいか!押すなよ、押すなよ!絶対にいいね押すなよ!』