それは朝の通勤ラッシュの事だった。
ピンポーン!
何か嫌ーな感じの音がしたので下を向くと案の定、
『早くしろよー!』
『急いでんだよ!』
そんな声がふと後ろの方から聞こえた気がしたが、
しかし、
その瞬間に何かの焦りを感じた。
『人が怖い。』
そんな感情が一瞬、自分の頭の中をよぎった。
ビピッ!
ドーッというような音、
『またこの日常か、』
私は新宿西口の改札を通り終えたばかりだった、
急いで行かないといけない!そんな感覚はわかっている。
しかし、
『これがあれば僕は何でもできるのに。』
そんな事を思いながら、
それは人波の波だった。波が波を呼び、収まると思いきや、
『なんだよ、これは!』
私は訳も分からず、それに混じりながらも乗車した。
男『おはようございます!』
オフィスに着き、覚えたばかりの業務を行い、
そんな日々を2週間過ごした私は無意識の自分を忘れ、
次第に強まる焦り。何故だかは分からない。
その不安はいきさきを間違えたのか、単なる自分の勘違いか。
なんにせよ、私はその感情を見ることを塞ぎ、諦めた。
私は日常に戻った。またとない普段の日常へと。
★
それは、ある夏の出来事だった。
毎年欠かせないある場所へと向かっていた。
ピンポーン!
男『あっ、鳴っちゃった。』
何故だろう、今日はその音が何も気にならなかった。
そして私には余裕があった。また楽しみが待っていた。
ピンポーン。
男『おばあちゃーん!』
『あいよー』
そんな可愛らしい声が少し遠くの方から聞こえる。
『あら、いらっしゃい(ニコッ)』
そこに居たのは紛れもない私のたった一つの宝物だった。
『よく来たね~(笑み)、とりあえず入んな。』
私は玄関を抜け、
そして奥の方ではシャキッ、
『今日は一人なんだね~、お兄ちゃんも一緒にくればいいのにね~
とそれはゆっくり優しく呟いていた。
男『ね~、でも今日は一人で来たかったんだー(ニコッ)』
『んんそっか~、ならいいや~、あぃよ』
トン。
目の前には、大皿の上に等分に切られたスイカが並んでいた。
シャキッ、シャキッ。
それを齧ると甘い幸せな感覚が口一杯に広がった!
男『やっぱりおばあちゃんのスイカは美味しいな~』
すると、途端に目が覚める!
suica『ピンポーン!』
駅員『かけこみ、駆け込み、駆け込み乗車はおやめ下さい!』
駆け込み客『いいか!押すなよ、押すなよ!