私はその時、命の危険性を感じた!
ドォォーー!!ドドォォー!!
それは何かとてつもなく大きな壁のような津波のようなものだった。
私は目が覚めた。
『んっ? なんだ夢か?』
その日、グアム旅行の最終日であった。
私はベッドから目を覚ました。
そして何か得体の知れない津波のような強い勢いを感じた。
『ねぇ!!今までグアムの5日間あなたの言うこと散々聞いたんだから今日ぐらいは海とかプールにいこうよぉ!!』
その波が無意識に彼女の事だと悟った。
その前日に、何故だか頭が冴え38時間以上起き、やっと眠りについた後のことだった。
彼女『今まで散々、あなたの言うこと聞いてきたんだから一度くらいは私の言うこと聞いてよっ!』
(ギクッ!)
私は一瞬、岩のように重くなりそこに凍りついたようだった。
(しょうがないなぁ。いくかぁ。)
私は何かがのし掛かったような重い腰をやっとの事で起こした。
(さすがに、38時間起きてからの5時間睡眠は身体が堪えるわ・・・)
そう思いながらも軽く朝食を済ました後、部屋から見える孤島へ彼女が指を指した。
彼女『あそこに行きたい!(ニコッ)』
私『わかったじゃあ、あそこに行こうか。』
その孤島は海に囲まれ、周りは小々波にも囲まれていた。
私『じゃあ歩くのは危険だからカヌーか、カヤック借りていこう。』
孤島の目の前にある監視所にて私達はカヤックを借りた。
私『じゃあ行こうか!』
私達は水着に着替え、カヤックのある海辺へ急いだ。
そこには透明で透き通った潮水が佇んでいる。
波に揺れ、辺りが光に反射しキラキラと輝き幻想的な景色が味わえる。
私『じゃあこれに乗ろう!』
二人はカヤックに乗り、彼女は前方へ、私は後方に乗り込んだ。
カヤックのパドルを持ち、後ろに居る私が漕いで孤島へと向かった。
私『なんかこれ結構、力入れないと進みずらいなぁ』
ゆっくりノンビリとカヤックは孤島へと地面と水平に進んだ。
しかし風の影響もあり、中々進み辛い状況だった。
ダメ男『疲れた、ハァ漕ぐの交代して・・・』
そんなダメ男は彼女にパドルを渡し、力が抜けて、揺られるカヤックに身を預けた。
ぼっーとノンビリしながら、顔を上に向けてリラックスしていた。
その時だ!!
どうした事か前方から強大な風が発生した!
ビュウウゥ~、ビュウウゥ~!
何かがこちらに向かって飛んでくるような物凄い勢いだった。
彼女が漕いでるカヤックが徐々に後方にある波へと流されていった。
『NO!!NO!!NO!!NO!!』(大声で!)
ふと声の主がある後方を振り返ると、何やら焦った顔で監視員がこちらを見ながら叫んでいた。
手を大きく振り、まるでそっちに行くなと言わんばかりに。
そしてその方向を振り向いた
その時、私は命の危険性を感じた!
ドォォーー!!ドドォォー!!
それは何かとてつもなく大きな壁のような津波のようなものだった。
『生きねば!』
私は悟った。
亡くなった父、最愛の母、愛すべき兄、無関心だが恥ずかしがり屋の弟、大好きな祖母に、ボケて自分の名前を忘れられた祖父。
彼らが走馬灯のようにして現れた。
『まだ死にたくないっ!』
そして今まで会って来た人や、これから会う人々に対して感謝や恩返しをしていない。まだ死に切れない。俺はここで死んだら絶対に後悔する。必死の形相でそれを思った。
ダメ男『俺に任せろ!』
彼女『えっ?』
ダメ男『俺にパドルを貸すんだ!』
前方で漕いでいたパドルを後ろへと渡す。
ダメ男は死ぬ気でパドルを漕ぎ、全力で孤島へと向かった。
このままでは波に飲まれ、絶命すらする危険性を感じる。
命が亡くなってしまう。
そう感じながらも前を向きながら全力で漕いだ。
前方の先では孤島で楽しそうに遊んでいる人達が見える。その光景は何やらとても楽しそうに写った。
しかし!そんな事を考えている暇は無い!
死と対峙している私にとって、そんな余裕はなかった。
すると、目の前で強風に煽られ、大波の方へと流される女性3人が乗ったカヤックがやってきた。
彼女『あぁ!助けないと!』
そう言ってる間にもどんどんと大波の方へと流されていく。
しかし、
『ダメだ!前を見ろー!!』
彼女『えっ!?』
ダメ男『他人の事など考える必要はない!』
彼女『は、はいっ!』
ダメ男『もう自分が生きるので精一杯だ!』
私はいい人を辞めていた。
それと同時にいい人を受け入れた。
ダメ男『俺が漕ぐから前だけ見て!どこに向かえばいいか案内して!』
私は本気になっていた。
しかし、このままでは同じように波に流される。
ダメ男『助けて、俺に力をくれぇ、何かマイナスな事じゃない。ポジティブな言葉だけ掛けてくれぇ』
彼女『うん、わかった。』
彼女『あなたなら出来る!出来る!最高!最高!ツイてる!ツイてる!スーパーハッピー!』
するとその途端ダメ男が、、、
会社を転々として遊び回って生きる様な、何か生きる事を恐れていたダメ男が。
精一杯、カヌーを漕いで島へと突き進んでいた。
そこには迷いはなく、何かを掴んだような、何かを掴みにいくような力強さが感じられた。
必死に本気で生きる事の大切さ、強さを身につけた瞬間だった。
彼は生き返った。
ただひたすら、がむしゃらに守るべきものを守る為に必死に生きる。そんな父親を連想させるかのように。
徐々に孤島の砂から反射する光が近づく。
そしてその光の中へと満たされ包まれていった。
2人『『着いた~!!』』
カヤックが無事に孤島へと到着した。
ダメ男『恐かった、、、(グスッ)死ぬかと思った~』
その瞬間、込み上げた想いが涙となり頬を滑らせた。
ダメ男『ありがとう!グスッ。』
そしてダメ男は言う。
『ごめん、、、俺、、、ナンパやめるよ。』
垢を拭いさったような魂が感じられた。
同時に『ブーンッ!!』と、
水上から何か大きなエンジン音がした。
涙を拭いながらそれを見ると、先程の女性達が流されていたカヤックへと救助に向かった。
彼女達は救われた。
そうそれは彼らの役割であり、私の役目ではなかった。
ダメ男『良かった!』
私は自分の役目を果たす、何かしらの情熱を感じていた。
そして生きる事の感動もまた知る事が出来た。
ダメ男は砂浜に倒れ込んだ。
上空を見ると真っ青な青空に、
ひこうき雲が見えた。
『生きれた!』
私はその瞬間に目をつぶった。
(ダウンロードされました。ありがとう、出来ました出来ました出来ました)
カチッ。
ダメ男『帰ろうか。』
目を覚まし、身体を起こすと何かが音を立てた。
見回すとそこにはゴーグルが落ちている。
そして身の周りには南国の自然が溢れていた。
ヤドカリが暗い穴の中からようやく抜け出てきた。
自分の重い殻がやっとの事で身軽になったように見えた。
彼は前の世界に戻りたくはないのだろう。
そしてなぜだか、そのヤドカリは自分の事のように思えた。
ホテルへと戻り、入り口付近にあったウォータースライダーに流された。
それも2回。そして今まであった自分の垢を洗い流すかのように。
ザップーン!
ダメ男『はぁ良かったー、楽しかったねー!じゃあもうグアムから帰ろうか。』
すると、ポッケに何かの違和感を感じる。
『あれ、なんかポッケに・・・』
(ゴソゴソ!)
『あっ!!・・・なんだこれか。(ホッ)』
そこには「水に流れるポケットティッシュ」が水に流れる事なく存在していた。
あたかもそれが、自分であったかのように。