お風呂①

『ねぇ、お母さん?』

『えっ?何?』

『お母さんは僕の事、何番目に好きー?』

チャプン。天井から水が滴り落ちた。
温かい湯気が立ち込み、辺りが白い蒸気に包まれている。

母『え?なんで?』

少年ヒカリ『いいじゃん、知りたいんだもん!』

ジャバジャバ。
体を縦に揺らしながら少年はそう言った。平らだった水面が横に揺れた。
そこは温かい風呂場だった。

ヒカリ『お母さんは僕の事、何番目に好き?』

母『3番目よ!』

ヒカリ『えー!なんでー?』

母『だって1番目はお父さんでしょ?2番目はお兄ちゃんだから』

ヒカリ『ヤダヤダ、ヤダヤダヤダ!』

ヒカリ『絶対に僕が1番がいいっー!』

母『そんな事言わないでよ、だって1番大好きなお父さんが居たからお兄ちゃんが出来て、あなたが産まれたのよ』

母『だからあなたは3番目よっ』

ヒカリ『ヤダヤダ、ヤダヤダヤダ!』

ヒカリ『絶対に僕が1番がいいっー!』

母『もうしょうがないなぁ・・・』

母『じゃあこれは2人だけのヒミツだよ?』

ヒカリ『うん』

母『じゃあ、ヒカリちゃんだけ特別に2番にしたあげるっ』

ヒカリ『やったー!お母さんありがとう!』

母『一緒にお風呂入ろうか?』

ヒカリ『うん!』

お風呂場と共に心も身体も温まりそうな、和やかな雰囲気がそこにはあった。
それは温かい優しい光に包まれ、部屋全体を美しい空間へと変えていった。

そんな可愛らしい少年も10年が経ち、やがて青少年へと成長した。

ヒカリ『ただいまー!』

母『おかえりー!』

学ランを着た青少年が、部活動から帰ってきたばかりの事である。

ヒカリ『お腹減ったー、ご飯まだー?』

母『もうちょっと待っててね』

母は夕食の準備中。
青少年はそこから離れテレビゲームやらを兄弟と遊び始めていた。

ヒカリ『負けたー!』

ヒカリ『もういいや、1人で遊んでて』
兄弟から離れ、再び台所にいる母の方へと近づいた。

母『さぁーて、急がないと』

そんな事を言って、野菜やら生魚を切っている。

ヒカリ『もうちょっと掛かりそうだな・・』
母の様子を見てからそう思い、青少年は台所から離れようとした時の事。

『キャア!!』

青少年は母の方を振り返った。
母親の指からは血が出ている。

母『あ痛っ、指、切っちゃった』

途端に母は傷の箇所を指で洗い流し、口で舐めながら出血を抑えた。

青少年は近くにあったバンドエイドとガーゼを母の傷口へと当てた

母『ありがとう』
なんだかヨタヨタしながら、両手で傷口を抑え、近くにあった扉に母は腰掛けた。

母『・・・ヒカリちゃん、そこのタオルを取って・・・』

青少年はテーブルにあったハンドタオルを母の手に渡し、止血しながら一緒に手を握った。

ヒカリ『大丈夫?』

母『はぁ・・・』

すると、母は気を失った。
壁にもたれながらもゆっくりと崩れ落ち、やがて床に腰を落とした。

目は閉じるが、口は開いたまま。
そんな弱った母の姿を目の前にし、青少年は母の閉じた目を見据えたままこう祈った。

『お母さん、僕にとってお母さんは永遠に1番だからね。』

すると、母親は目を覚ます。

『・・・』

『あっ、なんだヒカリちゃんか、ありがとう!』

やがて互いの手には温かな穏やかな温度が増し、黄色くまばゆい光りが輝き出した。
それは優しい愛へと変わり、光溢れる世界へと包まれていった。

『いいかお前ら、押すなよ!押すなよ!絶対にいいね押すなよ!』

そして、更に10年後の事。

やがて青少年は青年になり、3ヶ月間の海外留学へ行っていた。
そこから帰ってきたばかりの話である。

ヒカリ『ただいまー!』

母『あら、お帰りー^^海外留学は楽しかった?』

ヒカリ『うん、とても楽しかったよ!』

母『そうー、それは良かったわねぇ!英語も勉強したしこれから楽しみねー』

ヒカリ『うん、それで実はぼく、お母さんに話さないといけない事があるんだ』

母『なに・・・どうしたの?』

ヒカリ『お母さん、じつは僕、、、彼女が出来ちゃったんだ』

母『・・・』

母『あら、本当にー?おめでとうー!良かったわね!』

ヒカリ『うん、ありがとう』(ニコリ)

ヒカリ『それで彼女、横浜に住んでるから近々横浜に引っ越す事にするねっ』(ニコリ)

母『・・・』

ヒカリ『?』

・・・・・・・・・

母『ヒカリちゃん、、、』

ヒカリ『えっ?』

母『私って、、、何番??』

ヒツジ親子