親父に出てけと言われた、その日の事だ。
何故だかその時は解らなかったし、
分かりたくもなかった。

2階の四畳半のボロアパートに父と私が住んでいる生活。そんな生活でいざこざが発生した。

親父『お前はなんで遊んでばかりで勉強しないんだ!』

男『解ったよ!後でやるからいいじゃん!』

その当日、流行っていたポケットモンスター!
略してポケモンの携帯ゲーム機を遊んでいた時だった。

父親が急に私の目の前に立ちはだかった。
それを見た時、ふいに私は進撃の巨人に見下ろされていて、
一瞬に殺気というかとてつも無い恐怖を感じた。

その時だ!
ポケモンどころか携帯ゲーム機丸ごとを瞬時に父親がぶん取り、
畳の部屋に叩きつけたのだった。

『ガシャーン!』
私は唖然とした。

(えっ、なんで?)

親父『親の言う事を聞かない奴は出て行け!』
そう私に言い放った。

当時は何が何だか判らなかった。
むしろ、理解したくなかった。

なんせ、目の前にいたのは自分が大嫌いな父親だ。
出て行って欲しいのは当に自分でもわかっている。

そう自分に言い放った父親だ!

なんせ、私の事を理解する気も無いし歩み寄る気もないじゃないか。
この18年間振り返ってみろ!

お前が俺の、俺達家族にした事を振り返ってみろよ!
そう言い放ちたかった、しかし言い放てなかった。なんせ一家の主。
今の俺がここにいるのはあいつのお陰。

あいつのお陰で生きている。なんて絶対に言いたくない。
そんな嫌悪感、下手すれば憎悪にまみえるような感情を纏い私はついに家を出た。

そんな中、2階の階段を降りてアパートから離れる途中、
たまたま自分の下の階に住んでいる住人に出会った。

住人『どうしたんですか、そんな顔して。なんか嫌な事でも起こったようですねぇ。』
嫌味なのか、皮肉で言っているのかは分からない。しかし彼は私を心底心配しているようにも感じた。

男『いやぁ、またあの親父が怒り出して、、、とうとう僕の大事な物まで壊されてしまったんですよ。』

住人『あー、私も解りますよ。     そりゃ何年も同じアパートに居るもんですから声もストレートに聞こえてきますし、怒声も響き渡りますよ。正直私からしたら鬱陶しいですけどね。』

何故だろう、そんな風に言った住人に対して明らかな嫌味は感じなかった。

私も父親に対して同感だったのだろう。
そんなやり取りをした後、私はそこから離れ家からも離れた。

しかし何故だろう、父親に対しては未だに許せない事柄が多過ぎた。
私の最愛の母が作った料理を否定し、家族に食べさせなかった事。

仕事から帰って来ては、酒を呑んだくれ仕事の鬱憤を言葉の暴力で家族に喚き散らした。
そんな父親を理解する気もないし、そんな事する理由もサラサラない。
とっくに私は記憶から忘れかけていた日常を思い出せられた。

そして、10年が経ち自宅のアパートに手紙が届いた。
開けてみると、それは父が亡くなったという知らせだった。
私は驚愕した!

『なぜだ!』

こんな風に思った事なんて一度も無いのに一刻を争う時だ。急がねば!
急いで走りながらも、その間父との生活が頭をよぎる。
幼い頃に父と自転車に乗りながら、後ろでニコニコとはしゃぐ自分。

どこに連れてかれるかはわからなかった。しかし、そんな事はどうでもいい。
その時間は格別な時間であったのは間違いない。

誕生日パーティー。
家族団欒で自分はよだれ掛けと、おしゃぶりを付けていた。

『Happy Birthday to you~!』

『ハッピバースデートゥユー!』

『ハッピバースデー・・・』

私は我に返った。

なぜだか、幼少期の自分が出現した。
そして、久しぶりのボロアパートを見た。相変わらずのボロっけだが、記憶は真新しくキラキラと輝いていた。

カンカン、カンカン、カンカン、カンカン

私はボロい階段を急いで渡り、共にその音を親しんだ。
玄関のドアを開け、入ると久しぶりに帰ってきた母がそこに待っていた。
父はガンで亡くなっていた。

ふと窓に目をやると、缶ビール、タバコの吸殻が置かれていた。

父は寂しかったんだろう。私に甘える事も出来ずただただ仕事を行うだけの生活に慣れ、
家も仕事時と同化したかのような生活感にまみれているように感じた。

そのせいか、酒やタバコでその苦しみを癒し、
そしてその苦しみからも逃れるように家族にも当たり散らしたのだ

私は全てを悟った。
そう、私も同じ日常を。生活を経験していたのだ。

仕事から帰ると、飲んだくれたかのようにベッドに倒れて、起きれば寝タバコをしていた。

職場では食事する事を恐れ、10年前より10kgも痩せた。
しかしそれは全て自分のせい。自分の責任だ。

親父は悪くない、悪くないのだ。悪いのは俺だ。
紛れもない、たった一人の息子の俺なのだ。

それに気付いた瞬間、涙が止まらなかった。

俺『わーなんでだよー!』(父)
俺『帰って来てくれよー!』(父)

私はついに我慢した苦しみから解き放たれ咽び泣いた。
徐々に咽び泣きながら、床に頭をなだれて倒れる事を許した。
自分の胸を叩きながら自分の苦しみの浄化を経験した。

私の魂は咽びないた。

『ああーーー!!!(泣)』
と響く声と、畳を拳で叩つける音が何度も爆発した。

住人『ドンドンドンドン、うるせぇんだよ!お前はここから出てけ!』

住人『いいか、押すなよ!押すなよ!絶対にいいね押すなよ!』