『あーあー・・・。』

スーツ姿で渋谷の街を歩き、ため息をついた時の事だ。
私は当時、会社を辞めたばかりだった。

(やりたい事が無い・・・)

それは単なる焦りか妄想か。
そしてそれは、私にとって就職しなけばならないという意味だった。

『早く働きなさいよ!』
仕事を辞めてすぐ、そう母に宣告された。

働きたくないのではない、単にやりたいことが見つからないのだ。
何がやりたいのかも解らないのに、無理やり決めないといけない就職。

そしてそれは閉じこもった閉塞感であり、自分を塞ぎこんでしまいたくなる感情だった。

『生きづらい・・・』

私は見えない、出口の見えない何かにもがき苦しんでいた。
なんにしても就職して働いても怒られ続け、仕事が無くて家に居ても働きなさいと怒られ続けた。

ハローワークで職業相談をするも、何がやりたいのかわからない。

とりあえず何かに応募し相談をするも、違う業種ではなく、今まで続けてきた業種を継続しろと勧められる。

今まで何がやりたいのかわからないのに・・・。
それを無闇に働き続けてきたのに・・・。
それをまた続けろ!と言われた時の脅迫感。

私は相談しているのになぜか解ってもらえない気がした。

『はぁ、どうしたらいいんだ。』

・・・。

『とりあえず、ナンパでもする?』

私はなにか焦りを感じていた。
一般的な見解からみると就職したい、働きたいと思うのが普通なのかも知れない。

しかしながら私の場合は就職したい事でも、就職したくない事という訳でもなかった
帰り道、今日も先が見えない日常の中で山手線に乗り込む。

車内で揉みくちゃになりながら、ようやく席に座る事が出来た。
私はスーツ姿で、あたかも働いて疲れ切ったサラリーマンであるかの様に、座席で目をつぶり寝てしまった。

まぶしい日差しが辺りに広がる。

私は目を覚ますと青空の下、ビーチチェアに座っていた。
そこには目の前にプールがあった。

辺りを見回すと、どうやらここは南国にあるリッチホテルのようだ。

『気持ちいいね~(ニッコリ)』

隣を見るとそこにはピンク色の水着を着た女性がビーチチェアに座ってこちらを見ている。
しかも私と手を繋いで。

よく見るとそれは大好きな彼女だった。

彼女『プールに入ろう^^』

手を取り合って身体を起こし、彼女と共にプールに入る。

ジャプジャプ、ジャプジャプ。

私は彼女の手を取りバタ足をさせ、水中に浮くように泳がせた。

ジャプジャプ、ジャプジャプ。

手を取りクルクルとプールの中で足を支点に回り、
水面では彼女が宙に浮かぶ様に踊っている。

彼女『ンフッ(笑)アッハッハッー、楽しいね~!(笑)』

彼女の笑い声と同時に、海の方から夕日が見えた。

そしてその時。
私の頭の中で、星野源の『SUN』が流れ出した。

『Ah.Ah …』

星野源sun『いいか、お前ら!押すなよ!押すなよ!絶対にいいね押すなよ!』

『なっにか、楽しいことが起きるような、幻想が弾ける~』
『すべては、おもいどおり!Ah.Ah …』